名古屋市立大学整形外科 - Department of Orthopaedic Surgery Nagoya City University Medical School.

グループ紹介

股関節グループ

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我々股関節グループは、変形性股関節症、大腿骨頭壊死症、関節リウマチなどの患者様に対して人工股関節置換術を中心に治療を行っています。
受診していただいた患者様に手術の適応があるか否かを判定して適応のある患者様に手術を行うのではなく、長年を経て少しずつ破壊が進む股関節疾患を患者様のライフサイクル全体の中で、患者様と一緒に考えながら、保存的治療が可能な期間を最大限に伸ばし、一方で最適な手術を最適なタイミングで行うことを逸しないようにしています。手術の後も定期的に診察を行い、良い状況を保ち、もし何らかの問題が起これば、同じく最適なタイミングでの治療を行なっていくことを基本理念としています。

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井口普敬寄付講座教授、三井裕人助教、模型用3Dプリンター、黒柳元助教

手術に関しては、これまで経験で培われた感性に頼る部分のあった手術というものを、3次元CAD(Computer Aided Design)技術を用いた術前計画を行うことにより、患者様に最適な機種やサイズ、手術方法を決定し、より正確な手術をより短時間に行っています。
高度の医療を提供する大学病院として、股関節高位脱臼、人工股関節の再置換術などの複雑な状況にある患者様、例えば脚長差のある患者様には3次元術前計画による安全かつ適切な脚長補正を正確に行ったり、大きな骨欠損がある患者様に対し同様に3次元技術を用いて最適な補填部品の種類と設置方法を決定したりします。
大腿骨頭壊死症では年齢や病状により適応のある患者様には大腿骨回転骨切り術を行います。この手術は切り方の設計や血流の温存が重要ですが、3次元術前計画に加え大腿骨頭への血流を術中にモニタリングして確実に血行を維持し正確に手術をしています。
また、股関節グループでは既存の人工関節を使って手術を行うだけではなく、人工関節の開発も行っています。変形の強い大腿骨に対しては、ロンドン大学・ニューヨーク大学と共同開発したカスタムメイドステム(個別に設計製作ステム)を、さらにこれをもとにしたRevelation、イタリアパビア大学と共同開発したModulus R などの人工関節を開発して使用してきました。

名市大股関節グループで開発してきた人工股関節

(1) カスタムメイドステム(一人一人の患者様の骨の形状に応じて個別に設計するステム)

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名古屋市立大学股関節グループ、ロンドン大学、ニューヨーク大学で共同開発された。大腿骨の3次元形状と極めて正常に近い状態で体重を受けられる形状が設計される。さらに、脚長差・前捻角(大腿骨の捻じれ)なども術前に自由に変化させることが可能。
(開発1990年、本邦認可1995年)

(2) Revelation

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スタンダードステム ショートステム

一般的な大腿骨形状に対して作成したカスタムステムを、既製品として作られたステム(このステムも名古屋市立大学股関節グループ、ロンドン大学、ニューヨーク大学で共同開発されている)。正常からの逸脱の少ない大腿骨(初回手術症例の約90%)にそのまま挿入するだけで理想的な前捻角と荷重伝達を得ることができる。3次元術前計画で手術時には生まれつきの前捻角と手術後の前捻角は同じではないことが多数の手術データベースよりわかっており、平均6度捻じれを減らすことが最適な症例が多いため、その分も設計に織り込まれている。
スタンダード(開発1996年、本邦認可2000年)とショート(開発2010年、本邦認可2012年)の2つの長さを用意して大腿骨の状態に応じて使い分けている。

(3) Modulus R

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股関節グループとイタリアのパヴィア大学と共同開発で作られたステム(開発2009年、本邦認可2010年)。先天性股関節脱臼や臼蓋形不全では大腿骨の捻じれや脚長差が激しい症例が散見される。それらの補正のために大転子の下で骨切りを行い調整して人工股関節を行う必要がある。このような人工股関節置換術を安全かつより短時間で行えるように、設計された人工股関節ステム。

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Modulus R は骨切りの上の骨と噛み合うためのテーパーと、骨切りの下の骨と噛み合うための二つのテーパーを持つ。またステム全体にフィンを持ち骨の回転を止める.これにより自由な骨切りの設計と術後早期の荷重開始を可能としている。図の黄色い部分を切除することにより脚長差補正を行う。

(4) 現在取り組み中の人工股関節

これまで開発してきたものは人工股関節の大腿骨ステムばかりでした。骨盤側もカスタムメイドの必要性は高かったのですが、これまでの加工装置(NC旋盤)では加工が困難でした。近年金属用3次元積層造形装置(いわゆる3Dプリンター)が実用化され、加工が可能となってきました。 これを受けて、2013年より3Dプリンターによるオーダーメイド臼蓋コンポーネントの開発に着手しました。2016年度には愛知ファンドより、2017年度から経済産業省サポートインダストリーより地元企業とともに形成したコンソーシアムに対し補助金を受け、技術開発と厚労省認可に必要な様々なテストを行っています。実際に患者様の治療に役立てられるようにするために、企業主導でなく大学主導として厚生労働省の認可を受けるべく申請準備中です。この認可が得られれば、高度な変形や骨欠損を有する患者様個々に合わせた骨盤コンポーネントが作成でき、安全で効果的な骨盤の修復が可能となります。

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形成不全股に対して臼蓋補填を含めて設計されたカスタム臼蓋の試作品

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3D-CAD技術を用いて、術前計画や人工関節の個別設計などを行います。

この様に、一人一人の患者様に合わせて丁寧な診察と手術計画を心掛け、安全で安心な治療が提供することに努めています。

これらの研究の他、臨床技術の面でも世界で活躍できる若手関節外科医の育成のために、アメリカ、オーストリア、イタリア等の病院と連携し人工関節手術の海外研修も行っています。医学部学生や臨床研修医などの早い段階から、国際学会への参加などの経験を積めるような環境を整えています。
2014年には学生基礎実習にて股関節グループに配属された医学部3年生の学生さんがこの期間に行った研究を京都で行われた国際学会 International Society for Technology in Arthroplasty にて発表し、400演題のポスター発表からベストポスターアワード候補にノミネートされるという快挙をあげました。

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オーストリア、インスブルック大学のMichael Noglar 教授に来ていただき,国内の関連病院で手術を行いました。

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イタリア、パヴィア大学のFrancesco Benazzo 教授と人工関節研究会での写真。

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定期的に国内外の学会で発表しています。

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海外でのカダバーを用いた手術トレーニングにも参加しています。